代表取締役の辞任と取締役会設置会社の対応
例えば、取締役会設置会社において、12月1日に唯一の代表取締役Aが取締役を辞任する予定であるとします。取締役を辞任することによって、代表取締役Aは「退任」することになります(資格喪失)。
※取締役会設置会社では、代表取締役としての地位のみを辞任することもできます。
取締役会設置会社は、取締役が3名必要です。このため、取締役が3名のみの会社の代表取締役が取締役を辞任や退任した場合は、新たな取締役を選任しなければなりません。後任者が就任するまでは、Aさんが辞任すると欠員が生じてしまいます。そこで、権利義務取締役としてなお取締役の権利義務を有することになります。
取締役会議設置会社の選択
後任の取締役が、取締役であり、かつ欠員も生じないということであれば、後任を選任する必要はありません。また、これを機会に取締役会議設置会社ではなくなるという判断もあり得るでしょう。
ここでは、取締役会は残しつつ、欠員が生じて、取締役を選任しなければならなくなったという前提で、話を進めます。
取締役の選任と株主総会の開催時期
取締役の選任は、株主総会で行います。
ここでちょっと問題となるのは、株主総会の開催時期です。12月1日に辞任するのだから、同日に開催すればいいと考えるのが普通かと思いますが、株主や取締役のスケジュールが調整できない場合があります。また、12月1日のいつの時点で後任者が取締役として就任して、いつ代表取締役になるのか、前任者は一体いつ辞任するのか、というような時間的なタイムラグについて考えてしまうと、疑義なく、空白を生じさせずに、あらかじめ後任を決めておくことができないのかという気もしてきます。
予選と取締役の選任
そこで、検討されるのが「予選」です。あらかじめ、後任を選定しておくわけです。
在任取締役の任期満了後の後任者の予選については、任期満了までの期間が短くて(3か月程度なら許容されるようです)、合理的な理由があればいいとされています。辞任の場合も同様でしょう。
ところが、この予選には、面倒な論点があります。
代表取締役の選任と予選
代表取締役は取締役の中から選定することとされており(会社法362条3項)、このため、就任前の取締役を代表取締役として予選することは不可なのです。
したがって、予選をする場合は、取締役については、上記の方法で問題ないですが、代表取締役については、やはり12月1日に開催するしか方法がないように思えます。
書面決議と取締役の選任
これを回避するために、一般的に用いられる手法は、会社法370条のみなし決議(いわゆる「書面決議」)です。要は、実際に会議を開催しないで、書面で意思決定を事前に行ってしまうということです。なお、登記手続上は、通常よりも、作成する書類が増えてしまうので、このあたりのコストをどう考えるかという問題はあります。
定款変更と取締役の選任
このほか、定款に、株主総会決議で代表取締役を選定できるという規定を設けた上で、後任の取締役と代表取締役を予選するという方法もあります。しかしながら、この場合もやはり、定款変更というひと手間かかるということと、こうした規定を設けたとしても、取締役会議から代表取締役を選定する権利を奪うことにはならないという解釈との関係上、採用する例はあまりないのではないかと思われます。
代表取締役の辞任とその影響
おそらく司法書士以外はあまり興味のない論点ばかりだと思いますが、単なる代表取締役の辞任でも、様々な手続方法の可否の問題に波及することがあります。