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予防法務

予防法務とは、法的トラブルを未然に防ぐための法的手段です。

将来の法的紛争を想定して、紛争が起きるのを避けるために、あるいは、たとえ法的な紛争が起きても、それを速やかに、かつ、被害を最小限にして、解決できるように備えておくべき、リスク管理対策全般を指します。

被害を最小限にするもの

例えば、企業法務においては、契約書の作成や就業規則を始めとする内部規則の整備、債権・債務や知的財産の管理、内部統制システムの構築、従業員に対するコンプライアンス研修等が挙げられます。

トラブルが発生することを想定して、逆算的に何らかの対策を講じていれば、未然にトラブルを防げる可能性は高まるでしょうし、仮に想定や対策をすり抜けて、トラブルが発生したとしても、それに対する処理方法が明確になっていれば、そうでない場合と比べて、はるかに被害は少ないでしょう。

備えあれば憂いなし」であり、「転ばぬ先の杖」です。

実践は難しい

しかしながら、これを実践するのはなかなか難しいと感じることが多いです。

法務の責任者を任された当初に、偉い人から現場の人まで、契約書の中身はおろか、契約書を交わすこと自体について、その必要性を理解していただけなかった、という苦い思い出があります。

取引相手との法的紛争を想定すること自体に抵抗感があり、「仲良くしている相手方をなぜ信用しないのだ」、「仲違いを前提に話をしたくない」、「今までのやり方で何の問題もなかった」、「問題が起きたら話し合えばいい」というようなことを言われました。

生前対策も予防法務

最近のお仕事との関係で言えば、生前対策は、予防法務の際たるものです。

流行りの家族信託や中小企業の事業承継のほか、遺言は、認知症等の健康不安や死亡に伴う紛争を回避するための対策として、特に高齢化社会の日本では、たいへん重要だと言われています。

生前対策が広まらない理由

しかしながら、これらの対策が、あまり普及しているとは思えません。

なぜでしょうか。

よく言われるのは、日本は契約社会ではないからだという理由です。

アメリカじゃ、これから結婚する人たちでさえ、離婚後の財産の分け方について契約を結ぶのだ、だから日本は遅れている、契約社会になりましょう、というのです。

先の話がどこまでアメリカ社会に一般化できるのかどうかわかりませんが、彼らが、結婚する前に離婚後を想定して契約を結ぶのであれば、そういうトラブルが多いことの裏返しとも言えるではないでしょうか。

身近に揉めた人がいれば生前対策をする

大惨事を目のあたりにすると、人は備えるものです。

大地震の被害に遭った人は、いつ地震が起きても大丈夫なように、非常グッズの管理を怠りません。あおり運転が増えると、ドライブレコーダーが売れます。

親の遺産分割で揉めた経験がある人は、自分はちゃんと遺言を作成しようと思うようです。

予防法務は、コロナ対策で言えば、手洗い・うがい、マスク、換気、三密回避、ワクチン接種といった予防対策に当たります。日本人は、欧米諸国に比べて、これらの予防対策において、優等生であるところを見ると、特別に危機意識が劣っているとも思えないのです。

こうしたことを踏まえると、予防法務が進まない理由は、日本は、法律上のトラブルが少ない社会であることが背景にあると考えられます。事実、日本では、(法律上の)紛争が起きても、訴訟に至る前に、話し合いでなんとかなるということが多いような気がします。

手遅れになる場合もあります

そうはいっても、世界は、紛争にあふれています。紛争が顕在化してからでは、手遅れの場合もあります。

善意に囲まれている日常において、紛争を前提とした話をすることは、気の滅入ることです。健康のためには、ポジティブ・シンキングがいいのは、わかっています。

多少のポジショントークはあるのですが、もう少し、予防法務の考え方が広まればいいのになと思います。

この記事を書いた人

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