相続登記の申請が義務化されました YouTube

医療法人の役員変更

医療法人の役員変更は、株式会社の役員変更と微妙に異なっていて、いくつかのトラップがあります。

理事と監事

医療法人の役員とは、理事と監事です。都道府県知事の認可がない限り、それぞれ3名以上、1名以上を置かなければなりません。また、原則として、理事は医師又は歯科医師でなければならず、理事長は、理事会(又は理事の互選)によって選定されます。

理事の任期

ややこしいのは、理事の任期です。

 株式会社の取締役の任期であれば、(定款に特段の定めがない限り)「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」ですが、医療法人の理事は違います。

第四十六条の五 医療法人には、役員として、理事三人以上及び監事一人以上を置かなければならない。ただし、理事について、都道府県知事の認可を受けた場合は、一人又は二人の理事を置けば足りる。
 役員の任期は、二年を超えることはできない。ただし、再任を妨げない。

(医療法人法)

株式会社との違い

実際には、お役所から提示されるモデル定款に従うこととなるのですが、だいたい上述した医療法人法の規定に沿ったものになっています(モデル定款から外れることは、許可申請手続との関係上、避けられる傾向にあるように思われます)。

いずれにせよ、定例の株主総会(医療法人の場合は社員総会)と連動しているわけではないので、株式会社の場合と同じだと思って機械的に作業してしまうと、誤った解釈をしてしまうおそれがあります。

医療法人の理事はいつ退任するのか

具体的な例で考えてみましょう。

設立当初の役員でいえば、通常は、「その任期は、令和〇年〇月〇日までとする。」と記載されているでしょう。例えば、令和5年8月31日までが任期である理事Aがいる場合、理事Aは、定時総会があろうがなかろうが、8月31日の24時きっかりに退任することになります。

社員総会の開催日

この理事Aを再選させるためには、任期が切れる前に、社員総会を開催して、9月1日からもAが理事であるというかたちにしなければなりません。つまり「予選」が必要になります。予選においては、予選の前後の理事の構成員が同じでなければならないという要件があります。「予選」ができる間隔も、代表取締役の選定と同じように、長くても1か月と考えておいた方がよいでしょう。

重任の登記

上記の例でいえば、登記の申請上は、令和5年9月1日「重任」となります。「重任」とは、任期満了により退任した役員が、時間的間隔を置くことなく、「再任」されることをいいます。「退任」の登記はしません。同じ人ですが、古い理事Aが8月31日に「退任」をし、新しい理事Aが9月1日に「就任」することについて、登記手続上「9月1日重任」という形で申請するわけです。

重任後の任期

その次の任期はどうでしょうか。

予選によって、令和5年9月1日に就任(重任)したわけですから、今度の任期は、2年後の、8月31日までということになります。したがって、また重任させるのであれば、登記申請上は、「令和7年9月1日重任」となります。

理事は登記事項ではない

なお、医療法人の場合、理事は登記事項ではありません。理事長のみが登記事項となっています。理事長の選任は理事会で行われます。理事の構成員が変わる場合には、予選ができないので要注意です。そして、登録免許税はなんと0円です。

選任懈怠がない

それから、株式会社の場合、選任すべき期間内に選任しなかった場合(選任懈怠)や、選任はしたけれども期限内に登記しなかった場合(登記懈怠)には、それぞれ過料が科せられます。ところが、医療法人の役員変更の場合は、登記懈怠しか根拠規定がありません(20万円以下の過料)。

なので、前任者の任期満了後しばらく経ってから後任を選任することも考えられます。その場合、新たな任期は、少しずれて開始することになります。なお、この場合の登記原因は重任ではなく、退任+就任の登記となります。

実務上も任期が切れてから選任している場合は少なくないようで、こうした特殊事情が影響しているのではないかと思われます。

しかしながら、選任懈怠がないからと言って、手続をないがしろにしているのは印象がよくないのではないかと思います。

会社法に慣れてしまっている司法書士の老婆心かもしれませんが、他の許可申請の際に問題になるかもしれず、医療法人の役員変更においても、任期の満了前に後任をきちんと選任しておくに越したことはないと考えます。

この記事を書いた人

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