はじめに
大切な家族への不動産の継承は、多くの家族が抱える悩みの一つです。相続争いを避け、円滑な財産継承を実現するために有効な手段として、「生前贈与」と「家族信託」があります。
私自身、司法書士として、以前は認知症対策として家族信託のメリットに着目していたころもあったのですが、最近では生前贈与の方が手続きも簡便で、お客様にメリットが多いと感じるようになりました。
お客様からの生前贈与の依頼も増えてきており、特に、2023年度(令和5年度)の税制改正により、生前贈与の税制が変更され、生前贈与がより有利になったことが、その理由の一つではないかと考えられます。
生前贈与と家族信託の概要
それでは、生前贈与と家族信託を比較しながら、簡単に主な特色を見ていきましょう。
生前贈与
生前贈与とは、生きている間に財産を他人に贈与することです。相続税の節税対策や、家族信託と同様に、認知症対策などに有効です。
メリット
- 手続きが比較的簡単
- 生前に確実に財産の移転をすることができる
- 相続時精算課税制度などの仕組みを利用した節税対策ができる
デメリット
- 一度贈与した財産は原則として取り戻せない
- 年間110万円を超える贈与には贈与税(一般的には相続税よりも税率が高い)が発生する場合がある
- 不動産登記の際の登録免許税も相続や家族信託の設定時と比較すると高い
税制
生前贈与の場合、贈与税が発生する可能性があります。ただし、相続税の節税効果も期待できます。長期間にわたり実施することで相続税を少なくしたり、かからなくすることも可能です。ただし、贈与税は贈与する金額が多くなるほどに税率も高くなります(累進課税制度)。なお、相続時積算課税制度を利用することにより、2500万円までの贈与を非課税とすることもできます。
家族信託
次に、家族信託について見ていきましょう。家族信託とは、財産を信託設定者が信頼できる家族などの信託受託者に託し、受益者のために管理・運用することを定めた契約です。
メリット
- 信託設定者の意思を反映しながら、財産管理や利益の配分を委ねられる
- 複雑な制度設計ができる
- 契約時は贈与税が発生しない
デメリット
- 設定が複雑で、時間も費用もかかる
- 不動産を対象とした場合、登記手続きが生前贈与よりも複雑
- 対応してくれる金融機関が限定される
税制
家族信託の場合、贈与税は発生しません。しかし、信託設定者が亡くなったときに相続税が発生します。また、信託が終了したときに不動産所得税が発生する可能性があります。
自分に合った方法の選び方
それぞれの特性を理解した上で、自分に合った方法を選ぶことが重要です。
生前贈与がおすすめの場合(例)
- 手続きを簡便に済ませたい
- 相続税対策をしたい
- 財産を確実に承継したい
家族信託がおすすめの場合(例)
- 本人の意思を反映した財産管理をしたい
- 未成年の子ども等に段階的に財産を継承したい
- 複雑な制度設計をしたい
まとめ
生前贈与と家族信託は、大切な家族への円滑な財産継承を実現するための有効な手段です。それぞれの特性を理解し、最適な選択をすることが重要です。
生前贈与と家族信託は、それぞれ異なるメリットとデメリットがあります。どちらを選ぶべきかについては、個々の状況や目的に合わせて慎重に判断する必要があります。専門家に相談しながら、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
この記事がその一助となれば幸いです。