遺産分割協議を行うにあたっては、法定相続分の割合になるように分配すべきであるとお考えになられている方がいるようです。
遺産分割の意義
ところが、民法においては、そのようなことは書かれておらず、むしろ、この法定相続分による相続人の共有状態から脱するための方法として、遺産分割制度の意義があると考える方が一般的な法解釈となっています。
すなわち、被相続人が亡くなったことにより、相続開始するのですが、相続開始と同時に、被相続人の財産が、相続人の共有状態となります。これは、相続人のそれぞれの意思とは無関係に起きる法的効果です。しかしながら、例えば、ご実家などの不動産を共有状態にしておくことは、いろいろと不都合があるということで、特定の相続人に帰属することを可能にするのが、遺産分割協議というわけです。
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
(共同相続の効力)
第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
2 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
第八百九十九条 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
遺産分割の基準
もうひとつあまり認識されていないことがあります。それは、民法には、抽象的ではありますが、遺産分割の基準が定められているということです。
(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
法定相続分での分配
もちろん、実際には、こうした基準を意識せずとも、自由に話し合いをして、遺産分割協議書を作成すればよいのであって、話し合いの結果、法定相続分どおりにするという結論が否定されるわけでもありません。しかしながら、少なくとも、遺産分割協議で法定相続分のとおり分割すべきと民法が定めているわけではなく、共有状態のままでいることの不都合もあるということを理解した上で、協議をするべきではないかと思います。
裁判での基準
上記で紹介した民法の基準は、遺産分割協議が整わずに、調停、審判そして裁判に至ったときに、一定の威力を持ちます。つまり、上記の基準は裁判規範になるということです。例えば、旦那様がお亡くなりになり、高齢の奥様が残された場合には、法定相続分を基準として杓子定規に分割するよりは、引き続き実家に住めるようにしてほしいという配偶者の希望に配慮することが、民法の趣旨に合っていると判断される可能性が高いと考えられます。