相続登記の申請が義務化されました YouTube

募集株式の発行(増資)

株式会社における資金調達の方法として、株式を発行して資金を募る方法があります。株式を割り当てられた者は払込みをすることで株主となり、株主は議決権の行使や剰余金の配当等の権利を有することになります。

既存の株主に対して、その持株比率に応じて株式を割り当てること(株主割当)もできますが、広く資金を募るためには、既存の株主以外に株式を割り当てること(第三者割当)を検討する必要があります。なお、後述しますが、手続面では、第三者割当による方がスムーズな場合が多いです。

第三者割当のメリット・デメリット

募集株式の発行(第三者割当)による増資は、金融機関からの借入れと異なり、返済が不要であるというメリットがあります。また、クラウドファンディングに見られるように、ファン層としての株主の拡大は、ひいては利用者の拡大につながり、会社の業績アップにつながることが期待されます。

その反面、第三者が入ってくることによって、大株主であるオーナー等の持株比率は低下し、少数株主が増えて、議決権の行使に影響するようになると、会社経営の不安定要素になってきます。

したがって、第三者割当を行う際には、これらのバランスを踏まえて、どれくらいの株式を誰に割り当てるかを検討する必要があります。

なお、資本金が5億円以上になると大会社として会計監査人の設置義務が生じます。

手続きの簡素化

会社法の規定に従って忠実に手続きをする場合、取締役会(又は取締役による決定)と株主総会に双方について、招集の決定から割当てに関する決議まで、複数回の会議を開催して、決議をしなければなりません。そしてその都度、招集などのために、各種の通知業務も発生します。

株式の発行に関しては、経営戦略に関わる論点も多く、手続きに要する労力をできるだけ減らして、経営者は経営戦略に労力を注ぐべきです。

*以下、株主総会による意思決定が容易な非公開会社の中小企業を想定しており、例外的事項を省いています。また、有利発行や種類株の論点等は割愛します。

その1

手続きの短縮化に最も効果が高いのは、総数引受契約方式です。この方法で手続きを行うと、①募集事項の通知→②申込み→③割当決議→④割当通知という一連の手続きが不要になります。つまり、募集事項について株主総会(特別決議)で決定をして、契約をして、払込みをしてもらえばよいということになります。このため、増資の決定をしたその日のうちに契約と払込みまで完了することができれば、その日のうちに登記の申請をすることも、理論上は、可能ということになります。

なお、募集株式が譲渡制限株式の場合、契約について、株主総会(又は取締役会)で承認の決議をする必要がありますが、これについても、定款で別段の定めをすることで、手続きの簡素化を図ることができます(会社法205条2項)。

手続きが大幅に短縮できる総数引受契約方式は、第三者割当の場合にのみ使える手法です。ただし、実質は株主割当でも、第三者割当方式として手続きを行うことは可能です。株主に対する割当てなのに第三者割当として問題ないのかと疑問を持つ方もいるかと思いますが、結論だけ申し上げると、問題はありません。

その2

募集事項の決定には、①(取締役会で)株主総会の招集を決定→②株主総会の招集通知を発送→③株主総会の開催という手続きをすることになりますが、株主全員の同意が得られるのであれば、原則として、①と②の手続きを省略することができます。1人会社のほか、親族等が株主の場合やは株主数が少ない場合に使うとよいでしょう。

その3

1年のうちに数回増資を行うこと可能性がある場合には、募集株式の上限及び払込金額の下限を定めた「要項」だけを株主総会で決定しておき、取締役会(取締役会がなければ取締役)に具体的なことを委任することができます。委任は決議の日から1年間有効です。

その4

議事録には、出席取締役全員の押印をすることとしている企業も多いようですが、実務上、株主総会議事録については、議事録作成者の押印で足ります。取締役会と株主総会とで押印者を変えることがかえって混乱を招いたり、出席取締役の全員が押印してある方がコンプライアンス上望ましいとの考えもありますが、手続き簡素化のために見直すことができるところではあります。

なお、いわゆる「書面による決議」や「テレビ会議を利用した決議」は、手続の簡素化が見込まれそうですが、実際には、かえって労力が多くなることも多いので、要注意です。

その5

手続きの簡素化とは趣旨が真逆になってしまいますが、募集株式の発行において気を付けてほしいこととして、利益相反取引があります。例えば、(代表)取締役に対して株式を直接割り当てる場合だけでなく、発行会社の取締役が代表取締役である会社に割り当てる場合は、利益相反の是非について問うことを明らかにした上で、取締役会等で決議を行う必要があります。登記資料として求められているものではありませんが、予防法務の観点からは重要です。特に、親子会社関係で増資を行う場合は、要注意です。

まとめ

募集株式の発行(第三者割当)について、手続を簡素化するには、総数引受契約方式などの手法が考えられる。既存の株主に割り当てる場合であっても、第三者割当として、総数引受契約方式を採用することは可能である。いずれにせよ、募集株式発行の手続については、最新の実務手続きに通じた専門家に相談をしながら簡素化を図り、限られた経営資源を経営戦略等の他の論点に注ぐべきである。

この記事を書いた人

MKリーガルは、相続と商業登記を主に取り扱っている司法書士事務所です。お見積りは無料です。お気軽にお問い合わせください。お問い合わせフォームにより、24時間365日受け付けています。