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新設分割

新設分割は、分割会社(分割しようとする側の会社)の事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、新しく設立する会社に承継させて、親子会社関係を作るというものです。

組織再編(M&A)の手法にはいろいろありますが、既存の会社の特定事業(部門)を切り離して、子会社を作りたいのであれば、「新設分割」の検討をお勧めします。

新設分割を勧める理由

新設分割には、以下のようなメリットがあります。中でも、手続きの簡素化が見込まれるところが、大きなポイントです。

1.一定の条件によって省略できる手続きがあるので、短期間で手続きを終えることができます。通常の組織再編は少なくとも2か月を要しますが、新設分割の場合は、1か月以下で手続きを終えることも可能です。

2.分割会社主導で手続きを進めることができ、相手方や利害関係者との調整に要するコストが低いです。分割会社側が、どのような権利義務を承継させるかについての選択の自由度が高い手続きです。

3.「持株会社化」に適しています。持株会社とは、株式保有に特化した会社として、自らは経営支配に集中し、傘下にある子会社(グループ会社)に事業の運営を任せるという形態です。事業の全部を承継させると、元の会社は持株会社になります。

4.資金調達の必要がありません。新設分割は、事業を現物出資して、会社を設立するようなものです。したがって、通常の会社設立のように出資金は不要です。

5.会社法上の組織再編ではない事業譲渡とは異なり、商取引(売買)ではないので、現金(金銭)による対価は必要ありません。対価は、新設会社が発行する株式になります。売り買いするわけではないので、消費税も発生しません。同様の理由で、承継するものに不動産が含まれていたとしても、登録免許税や不動産取得税の減免措置があります。

新設分割の手続き

*以下は、一定の条件を前提としています。

新しく会社を設立するので、効力発生要件は、「登記」になります(同時に既存会社については変更登記をします)。単なる会社設立と大きく異なるのは、利害関係者との調整が必要になるということです。

債権者の保護

組織再編で最も気を遣うのは、金融機関等の債権者の保護手続きです。通常は、効力発生日の1か月前までには、公告や催告に関する手続きをしなければなりません。決算公告をしていない場合は、併せてすることも検討しなければなりません。

しかし、この債権者保護手続きを省略できる場合があります。それは、債権者に不利益が生じないことが明らかな場合です。例えば、債務が一切移転しない場合や債務が移転するとしても、分割会社に対して引き続き債務の履行を請求できる場合です。通常、新しく作った会社を第三者に売りと飛ばすといった目的がない限りは、こうした措置を採りやすいのではないかと思われます。特に、吸収分割との比較において、分割会社の手続きのみを気にすればいいので、手続き省略の効果は大変大きいです。

株主の保護

次に、株主保護です。こちらも、株主全員の了解があらかじめ得られているのであれば、手続きを省略できます。通常は、株主総会の招集や反対株主に対する事前の通知期間(登記予定日の20日前)というものを考慮しなければいけませんが、株主全員の同意があれば、短縮できますし、決議要件(特別決議)も気にする必要はありません。大株主と事前に了承が得られているだけでも、手続きはずいぶん楽になるでしょう。

なお、総資産の20%以下を承継させる小規模の新設分割は「簡易新設分割」と呼ばれ、株主総会の決議や反対株主の株式買取請求に係る手続きは不要になります。

労働者の保護

このほか、会社分割では、労働契約承継法に基づく調整が必要になります。事業の移転によって転籍する従業員などの権利を保護するためです。こちらも、上記と同様に、一定の期間で、対象となる労働者や労働組合に対して、異議申し立ての機会を与えて、異議が出た場合は、適切に処理する必要があります。包括承継ですので、労働条件を維持したまま転籍させるのが原則であり、その限りでは異議が発生する可能性は少ないと思われますが、必要に応じて、社会保険労務士等の専門家と相談して進めるのがよいと思います。

・新設分割をするには、新設分割による設立の登記(新設会社)と新設分割による変更の登記(分割会社)を同時申請する必要がある。

事業承継への活用

新設分割は、事業承継に活用されることもあります。

例えば、オーナー社長がA会社を経営していて、兄弟のどちらに継がされるか判断ができない、あるいは遺産分割協議で紛争に発展しそうな場合を想定しましょう。

まず、既存会社の1部門を切り出して、B会社を作ります。その結果、オーナー社長は、A会社とB会社の株式を保有することになります。それぞれの株式を兄弟に相続させれば、A会社は長男が、B会社は次男が経営権を有するという事業承継を行うことができます。

詳細は、税理士等の専門家と相談していただきたいのですが、組織再編において、実質的に分割会社の株主による支配が継続している等の一定の条件を満たせば、所得税や法人税の課税対象とならない可能性があります。

まとめ

  • 新設分割は、子会社の創設、とりわけ持株会社化に向いており、手続きの簡素化がしやすい。また、税金面等のメリットもある。
  • 短期に手続きができるかどうかは、利害関係者との事前の根回し(調整)の可否及びその結果による。

その他の手続き上の留意事項(メモ)

  • 登録免許税は、新設分が資本金の額×1000分の7で、変更分が金3万円
  • 会社設立のための公証人の定款認証は不要
  • 「資本金の額の計上に関する証明書」が必要
  • 新設分割計画書には収入印紙が必要(4万円)
  • 一定の事項について事前事後の開示が必要
  • 同時にする商号変更はOK。すなわち、新会社の商号を今の会社のものにして、自らの商号は変えるということができる(同一住所でも可)。

この記事を書いた人

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