故人が債務(いわゆる借金)を残して亡くなった場合、相続人間でどのように負担するかが問題になることがあります。これは遺産分割協議の議題に上がることが想定されます。例えば、親の住宅ローンを長男が引き受ける代わりに、実家を相続するという具合です。
マイナスの財産
しかしながら、原則として、遺産分割協議の対象はプラスの財産のみであり、マイナスの財産は遺産分割協議の対象とはなりません。
第三者の存在
なぜかというと、債務の当事者には、相続人ではない第三者が含まれるからです。上記の住宅ローンのケースについて言えば、債権者は銀行などの金融機関であり、相続人だけで決めたことに、第三者の債権者である金融機関が拘束されるというのは筋が通らないからです。
(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
債権者の同意
この場合、債権者は、法定相続分に沿って、各相続人に対してそれぞれ権利行使をすることができます。裏を返せば、債権者の同意を得ていれば、マイナスの財産に関する遺産分割協議の結果も有効になります。また、相続人間で合意した事実は、相続人同士の間では有効です。
実務的には、金融機関としても、債務の負担者が統一され借金返済の確実性が高まるのであれば、否定的であることは考えられませんが、この手続きには、費用、時間及び労力が必要になりますので(場合によっては債務引受等の変更登記も必要になります)、それらのコストと比較考量して、相続人間のみの合意として留めておくか判断した方がよいと思います。
また、債権者が金融機関でない場合もあります。例えば、故人が相続人のうちの誰かに借金をしていた場合です。この場合、当事者はすべて相続人となりますので、債権者が第三者である場合と異なり、自由に話し合いをすることができそうです。しかしながら、この場合も、考え方は同じです。やはり、債権者への配慮が必要であり、遺産分割協議に際して、債務の負担割合をどうするかについては、債権者の了承を得ることが必要になります。
その他、遺言の場合も同様です。遺言で、債務の負担割合が指定されていたとしても、やはり債権者の承認がなければ、債権者に対しては、相続人はそれぞれ法定相続分に従った債務を負っているということになります。