株式会社は、文字どおり、株式を発行する会社であり、株式会社が発行する株式には、様々なものがあります。会社法の108条に、株式会社が定めることができる異なる種類の株式が規定されています。具体的には、次のものです。
様々な種類株式
1.配当優先株式(又は劣後株式)
→ 剰余金の配当につき、優先又は劣後する株式
→ 残余財産の分配につき、優先又は劣後する株式
2.残余財産の分配優先株式(又は劣後株式)
3.議決権制限株式(完全無議決権株式を含む)
→ 株主総会の議決権を行使できるかどうかに関する株式
4.譲渡制限種類株式
→ 譲渡による株式の取得につき、会社の承認を要する株式
5.取得請求権付種類株式
→ 会社に株式を取得しろと言える権利を持つ株式
6.取得条項付種類株式
→ 一定の事由が発生すると会社が強制的に回収できる株式
7.全部取得条項付種類株式
→ 株主総会で会社が全部の株式を取得することができる株式
8.拒否権条項付種類株式
→ 一定の事項について、株主総会等で拒否をすることができる株式
9.取締役選任権付種類株式・監査役選任権付種類株式
→ 種類株主総会で役員を選任できる株式
黄金株とは
黄金株は、8番の拒否権条項付種類株式を指します。取締役の選任や解任、会社の合併や事業譲渡等の経営の重要事項について、他のみんなが何と言おうとも、この株を持っている人の承認がなければ、前に進めることはできません。最強のカードであり、トランプのジョーカーみたいなものです。
黄金株は、例えば、オーナー経営者が持つことで、買収防衛策に使えます。特に、株式の保有率が少ない経営者にとっては、たいへん有効なカードになります。また、ベンチャーキャピタルに出資を求める際に、配当優先株式や取得請求権付株式に加えて、強力な監視機能を持つ黄金株を与えることもあります。
事業承継
最近では、事業承継に使うこともあります。まだ未熟な後継者に対して、最終決定権を留保したい社長が、これを持っていくわけです。ただし、株式も相続の対象となりますから、遺言等で後継者に必ず承継されるように明記しておく必要はあります。確実性を考えるなら公正証書遺言が良いでしょう。また、事業が適切に承継された後に存続させる逆に弊害も出てくるので、相続と同時に拒否権が消えるような仕組みにしておく必要もあるでしょう。
黄金株を使うことのリスクは、そのパワフルな能力にあります。すごい力は、これが敵対する第三者に渡ってしまうとたいへんなことになります。そこで、譲渡制限種類株式や取得条項付種類株式にする等の対策を講じておくことが考えられます。
認知症対策
もうひとつ、こわいリスクがありました。認知症です。拒否権を持つ社長が認知症になったら、どうなるのでしょう。認知症になると意思能力がなくなりますから、議決権を行使することもできなくなります。重要な決定を早くしなければならないのに、成年後見人を選任するには、時間がかかります。そこで、このような場合に備えて、取得条項付種類株式としておきます。認知症になったら会社が強制的に回収できるようにしておくのです。
受験時代には暗記事項のひとつに過ぎなかった種類株式ですが、実務の世界では、まるでロールプレイングゲームの様々なキャラクターのように、生き生きとして見えてきます。黄金株をはじめとする種類株式は、使い方によっては、毒にも薬にもなり、組合せによっては、強いパーティにも、弱いパーティーにもなります。要は、プレイヤーの腕次第なのです。