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株式譲渡と事業譲渡

事業承継の手法として、特に小規模で非上場の中小企業では「株式譲渡」を活用することが多いです。
「株式譲渡」に似ているものとして、「事業譲渡」というものがあります。
名前が似ているので、混乱することも多いようですが、事業承継における、この二つの手法の違いを、簡単に解説します。以下、非上場の中小企業を念頭に置いています。

結論から申し上げますと、

  1. 株式譲渡も事業譲渡もいずれも事業承継で用いられる手法のひとつです。
    *活用する場面は事業承継に限られません。
  2. 株式譲渡は「パッケージ」で、事業譲渡は「カスタマイズ」です。
  3. 手続きが簡便なのは、株式譲渡です。

株式譲渡

株式譲渡は、株式を誰かに譲渡することによって経営権を移管するものです。「譲渡」は、有償無償を問いません。相続も含みます。「誰か」は、個人でも法人でも構いません。
株式を譲渡するので、ある程度まとまって株式が保有されていることが好ましいです。
株式に譲渡制限が設けられている場合、取締役等の承認機関での承認手続が必要です。承認手続きを経て、契約書の締結や株主名簿の書換えを行います。
株式譲渡によって新しく株主となった者は、株主総会で取締役等の経営陣を選任することなどの経営事項について、議決権を有することになります。
経営陣が交代するので、社長(代表取締役)をはじめ役員変更の登記事項が発生します。
また、株主には配当を受ける権利や残余財産の分配を受ける権利も承継します。
株主の権利は、正の財産も負の財産も包括するものです。つまり、包括的に承継します。
包括的に経営権の移管を図れることとから、後述の事業譲渡よりも手続きが簡便です。

事業譲渡

株式承継が「株式」を譲渡して株主の権利を丸ごと承継することによって事業承継を行うのに対して「事業」の譲渡によって事業承継を行うのが事業譲渡です。

「事業」の定義に関する判例として、以下のようなものがあるようですが(会社法改正前は「営業」と呼ばれていたようです)、よくわからないので「ノウハウとかも含めたいろんな会社財産の寄せ集め」のようなイメージだけ持っていただければ、あとは飛ばしていただいて構いません。

【判例】最判昭和40年9月22日

判旨「商法245条1項1号によつて特別決議を経ることを必要とする営業の譲渡とは、同法24条以下にいう営業の譲渡と同一意義であつて、営業そのものの全部または重要な一部を譲渡すること、詳言すれば、①一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによつて、②譲渡会社がその財産によつて営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、③譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうものと解するのが相当である。」

事業の譲渡は、会社分割等の会社法上の組織再編によって「包括的」に譲渡することもできますが、事業譲渡は「個別的」に事業の譲渡を行うものです。
「個別的」に行うというのは、カスタマイズができるということです。カスタマイズができるので、例えば「負」の財産は承継させたくないといった場合に適しています。
その反面、個々具体的に決定ないし手続きを行う必要があるので、煩雑で想定漏れなどのミスも起こりやすいというデメリットがあります。
事業譲渡では、基本的に(商業)登記は不要です。ただし、事業譲渡に付随して、登記事項を変更する場合は、当然登記は必要になります。また、譲渡する財産に不動産があって、その所有権を移転する場合は、不動産登記をする必要があります。

事業承継の方法

事業承継においてまず決めなければならないのでは、承継先です。承継先としは、以下の3つが想定されます。

① 親族
② 親族以外の会社内部の者
③ 第三者

①であれば、生前贈与や相続、最近では家族信託を活用した譲渡の方法が考えられます。
②や③であれば、売買が選択肢になるでしょう。
いずれの場合でも、承継に対する税務が発生します。後継者の選定や相続税等の対策は他の士業などの専門家とも協力して中長期的に行う必要があるでしょう。

この記事を書いた人

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