法律系の士業と言えば、弁護士、司法書士及び行政書士ですが、弁護士はともかく、司法書士や行政書士の仕事内容は、よくわかりません。
知名度が低い司法書士
特に司法書士の知名度は、どうしようもなく低いです。司法書士も行政書士も外国には存在しない士業ですし、専門家である各士業間でも「業際問題」として、トラブルになったりすることがあります。
実態としては、
お金に余裕があれば、弁護士を選び、弁護士の敷居が高いと感じたり、予算に余裕がなければ、行政書士に依頼し、司法書士は、登記以外は何ができるかよくわからないから検討対象から除外する、といった感じではないでしょうか。
そこで、会社設立と相続を例として、どのような観点で法律系の士業を選べばよいかについて、解説します。
ゴールから逆算する
結論から申し上げると、会社設立や相続(特に不動産がある場合)は、基本的には、司法書士に依頼した方が良いと思います。
理由は単純で、登記がゴールであることがほとんどだからです。
登記がゴールであれば、逆算してそれに必要な資料を検討して作業した方が効率的ですし、安上がりです。
登記は単なる手続に過ぎないという考え方もあるでしょう。会社設立で言えば定款の中身が大事であって、相続であれば遺産分割協議の中身が重要で、よってそこがゴールと考えるわけです。
中身が大事だという考えは理解しますが、中身の話に司法書士がノータッチというわけではありません。
登記が必要なら司法書士へ
司法書士は、登記がきちんとなされることを最優先します。登記がきちんとなされるということは、お客様の実現したいことや権利が、登記という形で、正確に公示されることを意味します。また、定款や遺産分割協議書などの資料は、一定の形式的な条件を満たしていないと、登記手続もすんなりといかないことがあるのです。
したがって、他士業の方が作成したものであっても、司法書士が確認しないことはありえません。予防法務の観点などからリスクについて付言することもあります。せっかく他の士業にお金を払って作業をしても、二度手間になってしまうことが、よくあります。
定款や遺産分割協議の中身はもちろん大事ですが、定款だけつくっても会社は設立したことになりませんし、大切な財産について未登記の状態では、第三者に権利を主張することができなくなるかもしれません。なので、登記が完成してこそ、お客様の目的が達成されると考えるべきです。
司法書士ができること
司法書士は登記手続しかできない士業のように思われているかもしれません。多くの司法書士の事務所が、いわゆる不動産決済をメインとしているため、仕方がない面はあります。
しかしながら、司法書士試験で勉強すべき会社法や親族・相続の知識は、司法試験を凌駕しているという意見もあります。手続法も実体法もインプット量は相当なものですから、いろいろな法務相談にも対応できる能力があるはずです。十分に活用されていない現実は、もったいないと思います。
登記以外もいろいろできる
司法書士は、登記以外に、以下のような業務ができます。
① 登記手続に付随する各種資料の作成や相談業務
② 裁判所に提出する書類の作成
③ 不動産以外の他人の財産の管理や処分
④ 遺言書等の作成支援
⑤ 成年後見
⑥ 日常の法律トラブルへの対応(簡易裁判所での訴訟代理など)
⑦ 債務整理 etc.
遺産分割協議や定款の作成は他の士業に任せて、登記だけ司法書士に任せるべきと考えている方もいるようですが、司法書士サイドとしては、他人の作った資料を一言一句確認をするはかなり骨が折れる仕事です。
遺産分割協議書の作成ができる
そこで、相続登記でしたら、相続人や相続財産の調査のほか、遺産分割協議書の作成も行います。相続手続に関して、登記業務を前提とした司法書士の職務上請求の威力は、なかなかパワフルです。
会社の設立についても、単に登記をするだけでなく、定款案を作成して公証役場で電子定款の認証をしてもらったり、議事録(発起人決定書)等の諸々の資料も作成します。
裁判所提出書類の作成もできる
また、司法書士の職務としてあまり認識されていないものに、裁判所に提出する書類の作成というものがあります。
特に相続において、相続放棄、限定承認、不在者財産管理人、失踪宣告、相続財産管理人、遺産分割調停、後見人の申立てなどが必要になった場合、「裁判所=弁護士」と頭に浮かんで、弁護士にお願いしなければならないと考える人は多いと思います。
しかしながら実は、司法書士に依頼すれば足りることが多いはずです。
裁判所に提出する書類の作成は、司法書士制度ができて以来(150周年!)の伝統的なお仕事です。なお、「簡易裁判所に提出する書類だけ」作成できるというわけでもなく、裁判所の管轄、事件の種類、書類の種類等の制限なく、受任できます。
財産管理もできる
さらに、司法書士は、弁護士と並んで、他人の財産の管理若しくは処分を行うことが法令上明記されている職業です。つまり、不動産以外の他の財産の遺産承継業務も行うことができるのです。したがって、銀行預金の解約等の不動産以外の財産の承継についてもまとめて対応できます。
※④~⑦については、長くなるので割愛します。
非士行為について
ところで、ときどき他の士業の方が登記もできますと公言する場面に出くわすのですが、弁護士を除き、非司行為に当たります。
*代わりに書類作成をして、本人が直接申請しても違法です。
参考までに、司法書士法の抜粋を載せておきます。
(司法書士の使命)
第一条 司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。
(業務)
第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一:登記又は供託に関する手続について代理すること。
二:法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第四号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
三:法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。
四:裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第六章第二節の規定による筆界特定の手続又は筆界特定の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。第八号において同じ。)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。
五:前各号の事務について相談に応ずること。
(非司法書士等の取締り)
第七十三条:司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
第七十八条:第七十三条第一項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
他の専門家の方がよいケース
司法書士以外の専門家に依頼した方よいケースもあります。
※独断と偏見につき、異論は認めます。
喧嘩は弁護士に
弁護士は、なんといっても訴訟のプロです。なので、訴えたり、訴えられたりということが前提としてあるなら、弁護士にお願いするというのが良いと思います。
おそらく登記については、弁護士から司法書士に再委託することになると思いますが、例えば、ある程度の規模の会社であれば、その後の(訴訟を想定した)契約書の審査業務や顧問契約などをお願いすることも想定して、最初から関わっておいた方がよい場合もあるかと思います。
また、相続に関して言えば、争い事が顕在化していて、自分の利益を最大化するための交渉をお願いしたいというような場合は、司法書士も行政書士も受任できませんので、弁護士一択ということになります。
つまり、お客様にとってのゴールが、相続を巡る紛争についての訴訟の代理をしてほしいということであれば、弁護士に依頼した方がよいでしょう。
許認可は行政書士に
行政書士は、士業界のハブ的な存在だと思います。日頃のお付き合いの流れなどから一度話を聞いてみて、サービスやコスト面等で折り合いがつくのであれば、会社設立や相続についても、依頼することは「あり」だと思います(登記はできませんのでご注意を!)。
そして、行政書士が他の士業に圧倒的に抜きんでている分野に、①(建築関係や医療法人等の)許認可の申請、②在留許可の申請、③補助金等の申請があります。したがって、こうした分野に関して依頼する必要があるのであれば、これらを専門としている行政書士にお願いするのが妥当だと思います。
つまり、お客様にとってのゴールが、許認可や在留許可などであれば、行政書士に依頼した方がよいでしょう。
税のことなら税理士に
このほか、法律系の士業ではありませんが、相続税の申告や顧問税理士が必要な場合は、税理士に相談してみるのもよいでしょう。その場合であっても、やはり会社設立や(不動産の)相続については、登記が必要であることは忘れないでほしいものです。
まとめ
法律系士業の選び方について、解説しました。
会社設立や相続については、登記がゴールであれば、司法書士を選択するのが良いと思います。
もっとも、弊所は司法書士・行政書士事務所であり、必要に応じて提携先の士業様におつなぎすることができます。