資金調達や事業承継で有用な種類株式ですが、種類株式会社における手続きで障害となることのひとつに種類株主総会の開催があります。株式会社が種類株式発行会社となると、通常の株主総会のほかに、種類株主で構成される種類株主総会を開催する必要があるのです。
ひとつの国の中に自治区ができるというイメージでしょうか。この場合、株主総会で議案が了承されても、種類株主総会でひっくり返されることがあり得ますので、予防法務的には注意すべき論点です。
種類株主総会の開催を控える方法
そこで、種類株主総会の開催をできるだけ抑える方法として検討してほしいのは、次の2つです。
どちらも種類株式発行会社となる際に併せて定款変更をすればよいのですが、当該規定がなくても、種類株式発行会社になることはできるので、設けていない会社もあります。弊所としては、後に手続きが面倒になる可能性があるので、特段の事情がなければ、設定しておくことをお勧めします。
なお、作成資料が少ない方がミスも少なくなりますので、登記手続上のメリットもあります。
1.募集株式の種類が譲渡制限株式の場合
会社法199条第4項
4 種類株式発行会社において、第1項第1号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
非公開会社、つまりすべての株式が譲渡制限の株式会社における募集株式の発行では、重要な論点です。
非公開会社は、よそ者が入ってくることを好ましく思わない、いわば鎖国状態の会社ですから、当然種類株主にとっては当然困る話(不利益なこと)であり、しかるべき決議を経て了承を得る必要があります。
よくある勘違いとしては、完全無議決権株式を設けてしまえばいいというものです。しかし、この場合、無議決となるのは、株主総会だけなので、やはり種類株主総会の開催は必要になります。
しかしながら、会社法199条4項で明記されているように、定款規定でこれを不要にすることができます。
注意すべきは、会社法238条4項や795条第4項にも関連する規定があるので、同じく排除規定を設けておく必要があるということです。
2.損害を及ぼすおそれがある場合
上記は、種類株主に損害を及ぼすことが明らかなケースと言えます。これに対して、必ず損害を及ぼすとまではいえないけれど、損害を及ぼしやすいと考えられるケースについて定めてあるのが322条です。
322条では、種類株主に損害を及ぼす可能性が高いと考えられる場合がたくさん列挙されています(例示列挙と考えられます)。大まかに分類をすると、以下のとおりです。
① 株式の種類・内容・数を変えてしまうような定款の変更(第1号)
② 株式の併合等の一方の株主が得をしそう株式に関する行為(第2号から第6号)
③ 組織再編(第7号~第14号)
これらについても、種類株主の利益を害する可能性のある行為については、種類株主総会を開催して種類株主の決議を得るという手続きが必要になります。
そして、やはりこの場合であっても、①の場合を除いて、定款規定により、種類株主総会の開催を不要にすることができます。①が定款規定でも排除されないのは、種類株主が不利益を被る可能性が他よりも高いからだと考えられています。
322条で挙げられているものは、例示列挙とされており、これに限定されるものではないと解されるようですし、後述のように「おそれ」の解釈は広めに解さざるを得ないので、上記の定款規定によって、種類株主総会の開催する場合の範囲をある程度確定しておくことは、円滑な手続きの観点からは非常に有効であると考えます。
会社法第322条
種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
一 次に掲げる事項についての定款の変更(第111条第1項又は第2項に規定するものを除く。)
イ 株式の種類の追加
ロ 株式の内容の変更
ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加
一の二 第179条の3第1項の承認
二 株式の併合又は株式の分割
三 第185条に規定する株式無償割当て
四 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第202条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
五 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第241条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
六 第277条に規定する新株予約権無償割当て
七 合併
八 吸収分割
九 吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継
十 新設分割
十一 株式交換
十二 株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得
十三 株式移転
十四 株式交付
種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。
第1項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第1項第一号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。
ある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式について第2項の規定による定款の定めを設けようとするときは、当該種類の種類株主全員の同意を得なければならない。
定款規定でも排除できない場合
繰り返しになりますが、第1号は定款規定でも排除できません。つまり、以下の場合であって、「損害を及ぼすおそれ」があるときは、種類株主総会を開催しなければなりません。
イ 株式の種類の追加
ロ 株式の内容の変更
ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加
逆に言うと、上記の場合であっても「損害を及ぼすおそれ」がなければ、種類株主に不利益は生じないのだから、種類株主総会の開催は不要です。
「損害を及ぼすおそれ」とは、どのような場合か
悩ましいのは、「損害を及ぼすおそれ」の判断方法です。
「損害を及ぼすおそれ」とはどのような場合なのかについて、誰がどのように判断すべきかについては、実務上の明確な基準はありません。
「おそれ」とは可能性を意味しますので、明確な先例なり基準がなければ、安全策をとって広く解さざるを得ません。
「ある種類の株主の割合的権利が抽象的な権利としてみて変更前よりも不利益を指し、具体的損害が生じることまでは不要」という解釈はあるようですが、具体的にどういうことなのかさっぱりわかりません。
むしろ「具体的損害が生じることまでは不要」とあるので、やはり広く想定しておかざるを得ないという考えに至るでしょう。
例えば、新しく発行する種類株式が、既存の種類株式に比べて剰余金の配当が良いということであれば分かりやすいです。しかし、配当はいいけれど、議決権がないということであればどうでしょうか。
発行済みの拒否権付き種類株式に加えて、新たな拒否権付き種類株式を発行する場合は、既存の株主の拒否権による(事実上の)影響力が低下しそうですが、どうでしょうか。
(*識者によれば、前者はグレーで、後者は不要と考えられているようです。)
予防法務の問題
いずれにせよ、これは登記手続きの問題というよりも予防法務の問題です。登記の申請手続きにおいて「損害を及ぼすおそれが」の有無を証明する必要はないからです。つまり、後になって、種類株主から、ちゃんと手続きを踏まなかったと文句を言われないための予防措置の問題ということです。
したがって、定款規定によって上記の排除規定を設けた上で、それでもすり抜けてくる「損害を及ぼすおそれ」については、前述のように後で紛争にならないかどうかを見極める必要があります。先例等を調べても判断がつかないようでしたら、種類株主総会を開催しておくのがよいと思います。
また、定款の定めによって種類株主総会を省略した場合の種類株主の利益保護の観点からは、株式買取請求権に関する手続きを行っておく必要もあるでしょう。
第116条
次の各号に掲げる場合には、反対株主は、株式会社に対し、自己の有する当該各号に定める株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
一 その発行する全部の株式の内容として第107条第1項第一号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 全部の株式
二 ある種類の株式の内容として第108条第1項第四号又は第七号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 第111条第2項各号に規定する株式
三 次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式(第322条第2項の規定による定款の定めがあるものに限る。)を有する種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき 当該種類の株式
イ 株式の併合又は株式の分割
ロ 第185条に規定する株式無償割当て
ハ 単元株式数についての定款の変更
ニ 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第202条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
ホ 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第241条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
ヘ 第277条に規定する新株予約権無償割当て
*その他会社法785条、797条及び806条も参照されたし