相続において、まず確認するのは、「遺言書」の有無です。遺言書は、故人の最後の意思表示であり、法律は、これを最大限尊重する仕組みになっています。遺言書は、先祖代々つないできた財産を、自らの意思で、次世代に引き継ぐための非常に有効なツールです。
しかし、意思能力がなくなれば、財産管理や法律行為は行えなくなります。認知症と診断されると、遺言書の作成はできません。そこで、判断能力があるうちに、十分な時間をかけて、関係者の意見を聞きながら、遺言書を作成しておくことが勧められます。
遺言が役に立つことをまとめると、以下の通りです。
①相続のカスタマイズができる。
お子さんがなく、父母等の直系尊属もいなければ、民法のルールでは、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。配偶者に遺産の全部を相続させたいのであれば、遺言書にその旨を書いておけば、解決します。
②相続人以外の者に遺産を残せる。
孫や義理の息子・娘は、相続人にはなりませんが、遺言書によって遺贈をすることができます。同様に、NPOなどの慈善団体に財産を残したい場合も、遺言書を残すことで、その遺志を実現することができます。
③「争族」を予防できる。
様々な事情により疎遠な相続人もいることでしょう。これまで仲が良かった者同士でも、話し合いの過程で、しこりを残すことになるかもしれません。あなたは、もうこの世にはいないので、話し合いをまとめることもできません。しかし、遺言書があれば、あなたのお考えが指針となって、相続人間の無用な争いを避けることができます。
④相続財産の調査が楽になる。
あなたの相続財産がどれくらいあるのか、何も知らない家族が正確に調べることが、どれほど大変かわかりますか。相続財産の種類は、現金、預金、株式、動産、不動産等と様々です。それを有しているのかどうかも、わからないことがほとんどです。しかし、遺言書があれば、あなたの財産は、一目瞭然です。
⑤計画的に遺産を承継できる。
遺産の中には、不動産や株式のように、簡単には分けることができないものもあります。また、税金、事業承継、株式、不動産等に関する対策は、簡単には決められません。
2019年と2020年に、次のような、自筆証書遺言に関する法改正がありました。高齢化社会の進行と同時に、家族環境は多様化しており、こうした家庭環境に応じて、民法のルールを、家族のそれぞれの状況に応じてカスタマイズできる遺言制度をもっと活用してほしいとの国からのメッセージであると思われます。
①自筆証書遺言の方式の緩和
全文を自書しなければならないという要件が緩和され、財産目録については、自書(手書き)で作成する必要がなくなりました。ただし、目録の各ページに署名押印をする必要があります。
②法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設
遺言書保管所(法務大臣の指定する法務局)において、有料ですが、自筆証書遺言を保管してくれる制度ができました。そして、遺言書保管所に保管されている遺言については、家庭裁判所の検認という手続を要しないことになりました。
なお、この遺言書保管制度については、「今後、遺言者の死亡届が提出された後、遺言者の存在が相続人、受遺者等に通知される仕組みを可及的速やかに構築すること。」とされています。逆に言うと、今のところ、こうした仕組みはありません。したがって、遺言者が亡くなった場合に、遺言書の存在を遺言執行者などに知らせる方法を、別途考えておく必要があります。
また、遺言書保管制度については、新しい制度でもあり、公正証書遺言とは異なる独自のルールがあるようなので、法務局に逐一事前確認をしながら、進めていった方がいいとでしょう。
本制度について、法務局は保管をしてくれますが、遺言の内容について有効かどうかの事前審査をしてくれるものではないことは十分留意する必要があります。
遺言の内容を決めるのは容易なことではありません。なんどもなんども作り直す必要があるでしょう。またせっかく遺言を作ったのに法律で決められた様式になっていないようでは、たいへん残念なことになってしまいます。MKリーガルは、遺言作成について、納得がいくまで、サポートします。
*遺言によって相続人の不公平や不利益が生じる場合、一定の条件を満たす必要はありますが、遺言と異なる遺産分割をすることはできます。