相続登記の申請が義務化されました YouTube

不動産登記が必要なわけ

第三者に自分の権利を主張(対抗)する力のことを「対抗力」といいます。

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない(民法177条)。

同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記の前後による(不動産登記法第4条)。

二重譲渡の問題

対抗力の問題の典型例は、不動産の二重譲渡のケースです。

売主が、買主Aと買主Bに二重に不動産を売却して、Aさんが先に代金を支払って実際に住んでいたとしても、Bさんの登記が先であれば、Bさんが所有権を主張することができます。同じ物件を別の人が買った場合は、登記について「早いもの勝ち」の判断をするのです。

不動産登記制度がなければ、土地の所有権を主張する者が複数出てきた場合に、誰のものであるか判断することが非常に難しくなるでしょう。

このほかにも、不動産登記には、次のような効力があり、こうした効力によって、不動産所有者の権利の保護がなされています。

「権利推定力」

権利推定力とは、国の機関である法務局を通じた登記がされているのであれば、登記のとおりに実体としても権利があるだろうと推定してよいとする効力のことです。真実の権利者が反証すれば覆ることもあり得ますが、登記を信じて取引を行った第三者には、過失がないものと推定されます。

「形式的確定力」

軽視的確定力とは、いったん登記がされてしまえば、その登記の内容を無視できなくなる効力のことです。実際には、嘘の資料で登記をした場合であっても、登記が抹消されない限りは、それをないものとして手続ができなくなります。

不動産登記は義務か?

では、この不動産登記は、義務でしょうか、必ず行わなければならないものでしょうか。答えは、YESでありNOでもあります。不動産の登記簿には、「表題部」と「権利部」というものがあります。表題部には、不動産の所在地、地目、所有者名が記載されており、権利部には、所有権や抵当権などの不動産に設定された権利が記載されています。表題部は義務ですが(罰則あり)、権利部は義務ではありません。

権利部の登記は、原則として義務ではありませんが、自宅などを購入する際には、登記を行うことが金融機関からの融資の条件になっています。担保権を設定する側の金融機関としては、担保権の対象となる物件の権利の主張ができなくなる事態は必ず避けなければならないからです。

このように、不動産登記は、所有権を誰に対しても主張できること、そして不動産の売買や賃貸といった取引を円滑に行うことができるといったメリットがあります(デメリットは、これの反対になります)。私有財産制を採用する我が国において、大切な財産である不動産に関する権利に対し、国からとやかく言われるのは、好ましいことではありません。このため、権利部の登記は、原則として、私的自治に委ねられています。

相続登記の義務化

2024年4月1日、相続登記の義務化がスタートします

相続登記については、上記のような取引上の要請による強制力が働かず、登記がおろそかになってしまうことが多いのです。

相続登記をしないと、不動産の登記簿上の名義は、亡くなった人のままです。

死亡によって相続は開始しており、遺産分割協議をして名義変更をする必要があるのですが、放置されている間に、相続人の誰かが認知症になると遺産分割協議も難しくなってしまいます。

何代も相続が重なっている未登記不動産の中には、権利関係が複雑になりすぎて、誰のものかよくわからないものもあります。

権利の一部について、相続人の債権者などの第三者に差し押さえられてしまうケースもあります。

そして、市役所等で取得すべき必要書類も保存期間を過ぎて入手困難になってしまいます。

他人名義の不動産を売ったり、担保設定をしたりすることはできませんので、ますます相続登記が放置される状態が続いてしまいます。

その間に法律が改正されると、権利承継関係の判断は、専門家でも非常に難しくなってしまいます。

相続登記がされないこと等による所有者不明土地の問題は深刻で、政府としても解決に本腰を上げました。その一環として相続登記の義務化があります。(所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが変わります。法務省民事局

相続税の申告義務がない場合もある 

どの専門家に依頼すればよいのでしょうか。

相続において、まず考えなければいけないのは、相続税の申告です。

相続登記の義務化が始まるとは言え、相続税の申告期限は「(被相続人の死亡の日の翌日から)10か月以内」ですから、まずこれに対応する必要があります。

一方で、すべての人に相続税の申告義務があるというわけではありません。相続税には基礎控除というものがあり、遺産が一定額を超えないと相続税の申告義務はありません。基礎控除額の計算式は、以下のようなものです。

 3000万円+(600万円×法定相続人の数)

相続税の申告義務がある方は、まず税理士に相談すべきです。弊所は、提携している税理士を紹介することができます。

不動産登記が必要であれば司法書士に

相続税の申告義務を終えた方、そして申告義務がない方は、司法書士に依頼すべきです。不動産登記の申請代理ができるのは、実質的には司法書士だけだからです。したがって、他の士業の先生に依頼をしても、登記の申請に関しては、司法書士が行うことになります。

なお、弁護士は、司法書士業務も税理士業務もできることになっていますが、弁護士は訴訟の専門家ですので、両業務を同時に取り扱っている弁護士はあまりいないと思います。逆に、遺産相続で揉めている場合であって、自分の代理人として交渉して欲しい方は、弁護士しか選択肢はありません。なお、家庭裁判所に遺産分割調停を依頼したい場合は、裁判所への提出書類の作成を司法書士に依頼することができます。この場合、司法書士は、弁護士のように、特定の相続人の代理人として交渉することはできません。

外国人の不動産登記

国によって内容は異なるものの、不動産登記の制度は海外にもあるので、その必要性については、概ね外国籍の方にも理解を得られるのではないかと思います。一方で、登記を専門に扱う「司法書士」という職業は、日本特有のものですので、依頼先について承知している方は多くないと思います。

また、日本にある不動産だから、日本の法律に従って処理すればよいというものでもなく、国際私法も踏まえて、個々に処理をする必要があります。法務局の職員も、海外の法制度に熟知しているわけではありませんので、時には説明用の資料を作成する必要があります。商慣習の違いや国外のお役所を相手にする資料収集は困難を極めることも多く、定型的に処理することが難しい分野です。

この記事を書いた人

MKリーガルは、相続と商業登記を主に取り扱っている司法書士事務所です。お見積りは無料です。お気軽にお問い合わせください。お問い合わせフォームにより、24時間365日受け付けています。