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不動産の共有相続

「うちは兄弟(姉妹)間の仲がいいので大丈夫ですよ。」

御兄弟等の不動産の共有相続の御依頼があった際に、そのリスクについて説明をすると、だいたいこの反応が返ってきます。

不動産の共有相続は、いわゆる「争族」の典型例です。

ネットやマスメディアでも、そのリスクを訴える情報はあふれていますが、都市部の土地の価格が高価ということもあり、相続登記の依頼を受けた場合は、共有で相続登記をすることが少なくありません。

そこで、不動産の共有相続についての問題点を確認しつつ、その解消方法などについての考えをまとめてみました。

仲がよければ共有相続でもいい?

共有相続の問題は、仲がよければ気にしなくていい、ということはありません。

「共有」の問題は、紛争の種を潜ませている時限爆弾のようなものです。「相続人同士の仲はいいから大丈夫」という理屈で、相続を進めてましょう。

→ 相続人のうちの誰かが亡くなると、子供などに持分がさらに分割されます。

→ 兄弟(姉妹)間で半分に分けたものが、その子供などの数ごとに分割されていきます。

→ 持分が細かくなり、持分権者である相続人がどんどん増えていきます。

→ 子供がいないご夫婦であれば、配偶者の親族にも相続が分岐していきます。

→ 何代も相続が続くうちに、疎遠な方もでてきます。

→ 持分が誰かに渡れば、親族でもなんでもない第三者が入ってくる可能性もあります。

→ 権利関係が複雑になって登記は放置され、そのうち誰のものかわからなくなります。

  etc.

そのうち、不動産を売却したいという話が出てくるかもしれません。共有不動産をまとめて売却するには、権利者全員の意思が一致している必要があります。

上記のように権利者が多いと、売却方針について意見が割れる可能性も高くなります。相続人の誰かが、引っ越しをして遠方に住むことになっているかもしれません。離島や海外に住んでいるかもしれません。行方不明になっているかもしれません。

高価な不動産を売却することについて意見をすり合わせることは、たいへんなことです。これまでは仲が良かったのに、お金が絡むと、時間がかかってしまって、高値で売れる時に売れなくなるかもしれません。相続人同士の関係もぎくしゃくしてしまうかもしれません。

さらには、認知症や事故によって、相続人の意思能力に問題が生じることもあります。こうなると家庭裁判所に後見人を選任してもらう必要があります。加えて、自宅の売却には家庭裁判所の許可が必要になります。

アパート経営をしている物件が共有の場合は、管理をするのが誰か、家賃収入や税金の負担をどうやって分けるかという問題も発生するでしょう。仲の良いご兄弟の共同経営ということであればなんとかなるかもしれませんが、関係者が増えていくとその調整は至難です。

共有解消の決断ができないうちに、全部を売却できないのなら、こっそり持分だけを売却するという事態もあり得ます。経済状態が悪化して、知らない間に、共有者が変わっていたり、持分が差押えられたりするケースも否定できません。

将来のことはわからないのです。今は良くても、なにかをきっかけに相続人の一方が不公平感を抱くことで、トラブルに発展する可能性があります。

仲が良いうちに共有状態を解消する決定ができないようであれば、不仲になった場合に円満な話し合いを期待することは難しいでしょう。爆弾を爆発させないためには、爆弾を作らないことがベストです。

共有不動産の紛争解決

不公平感は、共有者の一方が不動産を占有をしている場合に生じることが多いようです。不幸にしてトラブルに発展した場合、一般的な解決策は、共有持分を買い取らせる(買い取る)ことで、共有関係を解消することです。買取費用のほかに、税金や登記手続についても費用や時間を要することになります。それでも、お金で円満に解決できればいいでしょう。しかし、一度ぎくしゃくしてしまった関係の解決は難しいのです。

紛争が顕在化して、話し合いによる調整が難航するようであれば、遺産分割の時に決断していたよりも、買取金額が高くつくことになるかもしれません。金額について折り合いがつかなければ、民事調停共有物分割訴訟などで裁判所に訴訟を提起することになります。訴訟は何年もかかるかもしれませんし、弁護士等に支払う金額も必要です。なにより判決は必ずしも自分の意に沿わない可能性があります。

実務においては、共有者のうちの一人の単独所有と他の共有者に共有持分権の価格の賠償を請求することが多いと思われますが、裁判所がその要件を満たさないと判断した場合、形式的競売による換価処分の判決が言い渡されることが考えられます。

代償分割したくでもできない

一方で、特に都心の土地の評価額は高額になることも多く、遺産分割協議の段階で、共有相続を解消する有効な手段があまりないというのも現実です。

共有相続を解消する一般的な方法は「代償分割」という方法です。

例えば、長男が実家を相続する代わりに、他の兄弟姉妹などの相続人には代償金を支払う旨の遺産分割協議を行います。

ところが、共有相続を選択せざるを得ない理由のほとんどが、土地の値段が高いということです。代償金に充てる現金が用意できないのです。

代償分割以外の分割方法としては、土地を売ってその売却費を相続人間で分ける「換価分割」や分筆登記をして物理的に分けてしまう「現物分割」というものがあります。

代償分割以外の選択肢

これらを採用できるケースはよいですが、ほとんどの人にとって、売ったり、分筆したりは、どれも難しいのではないでしょうか。結果として、共有相続をせざるを得ないということになってしまいます。

どうすればいいでしょうか。

結論としては、あまり有効な手段はありません。思いつくのは、以下のようなものくらいです。いずれも相続人間での難しい調整が必要であり、万人が使えるものではないと思います。

①現金以外の他の資産(他の不動産など)で支払う。

②分割払いにする。

③不動産を担保に入れて金融機関から借りる。

生前対策による方法

相続時における解決策ではありませんが、個人的には、これが最も理想的ではないかと思っています。簡単に紹介します。

1.現金等を用意しておく。

被相続人になる人が事前に現金等を用意しておき、相続人間で公平に相続できるように準備しておきます。生命保険や積立ができる金融商品等を活用するのもよいでしょう。

2.家族信託を活用する。

例えば兄弟2人のケースで賃貸マンションの共有相続を避けたい場合、賃貸マンションを信託財産として、長男にマンションの管理等を信託します。長男は、賃貸借、大規模修繕工事、譲渡等の一切の締結締結の判断を行えるものとします。賃料収入は兄弟で分割します。マンションが第三者に譲渡された場合は、その代金も分割します。。。といった具合です。

まとめ

高額な不動産を相続する場合は、共有相続をせざるを得ない場合が多いです。いざ相続が開始されると有効な手段も乏しく、生前対策をしておくことが理想的です。

なお、司法書士は、基本的に紛争に立ち入ることはできません。司法書士ができることは、予防法務の観点から、不動産の共有相続のリスクを丁寧にお伝えするようにし、最終的には相続人の皆様のご判断に委ねることになります。紛争が起きた場合、司法書士は、裁判所への提出書類の作成などで支援することができます。

この記事を書いた人

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