相続登記の申請が義務化されました YouTube

所在不明者と相続登記

相続人の中に所在(行方)不明の方がいる場合、遺産分割協議をすることができません。遺産分割協議は、相続人全員の意思の合致が必要になるからです。このような場合、特に問題となるのが自宅等の不動産の売却処分であり、その前提としての相続登記です。

 

 これまでの選択肢としては、

(1)不在者財産管理人

(2)失踪宣告

(3)法定相続

の3つの選択肢がありました。

これに令和5年4月1日施行の改正民法によって、

(4)所在等不明共有者持分の取得

(5)所在等不明共有者持分の譲渡

の2つの選択肢が加わります。

 相続人に所在不明者がいる場合の対処方法について、どのようにするのが最適なのか、利用者目線で、考えててみました。

1.各選択肢の概要

(1)不在者財産管理人

 不在者財産管理人は裁判所の手続きを経て選任してもらいます。そうすると、この管理人をいわば行方不明者の代理人として、遺産分割協議をすることができるようになります。ただし、利用にあたっては、次の点に十分留意する必要があります。

①裁判所の手続きに予納金として数十万の納付が必要になる場合がある。

②管理人の選任までに時間がかかる。

③弁護士等の専門職が管理人となる場合がある。

④管理人への報酬が必要になる場合がある(予納金や被相続人の財産等が充てられる)。

⑤管理人は特定の不動産だけなく不在者の全財産を管理することになる。

⑥不在者の権利保護のため、法定相続分の確保を主張される可能性が高い。

⑦相続財産の売却には家庭裁判所の許可が必要である(不在者の権利保護の観点から判断されるので期待薄)。

 特に、不在者の財産保護に主眼を置いた制度である点がポイントだと思います。

(2)失踪宣告

 行方不明の相続人が、7年以上生死不明であれば(他の理由によるケースもあります)、裁判所に失踪宣告を申し立てることができます。失踪宣告によって、所在不明者は、行方不明となった日から7年を経過した日に、死亡したものとみなされます。これによって、所在不明者を被相続人とする相続が発生することになります。

 裁判所の手続にはやはり時間と費用がかかります。また、後で生存が判明した場合は、失踪宣告の取り消しという手続きを経て、財産や身分関係が復活することになります。その結果、失踪宣告によって生じた財産について、返還義務が生じる可能性があります。

(3)法定相続

 民法で定められた画一的な相続方法であれば、遺産分割協議は不要です。例えば、父が亡くなり、母と子供2人が相続人(このうちの誰かが行方不明)であれば、それぞれ、4分の2、4分の1、4分の1という相続登記をすることは可能です。

 ただし、所在者不明者の持分も含めた不動産全体を売却することはできません。所在不明者以外の持分のみを売却するということはできますが、売却代金は、かなり低額になってしまうでしょう。

 このように従来の選択肢は、決して使い勝手が良いものではありません。このことが「所有者不明土地問題」の要因となってきたことは否めないでしょう。そこで、改正民法により、次の選択肢が加わりました。

(4)所在等不明共有者持分の取得

 所在不明者の持分を他の相続人が買い取る仕組みです。裁判所の手続きが必要であり、買取金額は、持分に応じた時価相当額を、裁判所が決めます。買取金額については、法務局に供託というかたちで納めることになります。

(5)所在等不明共有者持分の譲渡

 所在不明者の持分も含めて第三者に譲渡することができる仕組みです。上記の制度と同様に裁判所の手続きを経て、所在不明者の持分価格が決められ、供託をする必要があります。注意すべきなのは、(相続により共有状態となっている不動産の場合)相続開始時から10年以上を経過していないと、この制度を利用することができないということです。

2.最適な対処方法はどれか?

 現時点ではまだ利用することはできませんが、改正民法により、従来よりも選択肢が増えたことはよいことです。なにより、新しい選択肢は、空き家問題などをはじめとする所有者不明土地の問題の解消を目的としています。しかしながら、利用者としては、裁判所の手続きや金銭的負担が必要であるところに、ハードルが高いと感じる方もいるのではないでしょうか。

 このような面倒を避けるためには、生前対策が有力な選択肢になります。遺言があれば、そもそも遺産分割協議をする必要はありません。問題が起きてから対策するよりも、事前に対策をしておけば様々なコストを回避することができます。あらかじめ、行方不明の(推定)相続人がいることが分かっているのであれば、遺言を作成し、財産の帰属先を決めておくのがよいでしょう。また、家族信託であれば、関係者も交えて、承継方法を柔軟に決めることもできます。

3.まとめ

  行方不明者と相続登記の問題は、在外日本人、外国籍の人が被相続人や相続人となる渉外登記においても大きな問題になっているようです。外国での所在不明者の調査は、日本国内よりも難しいからです。

  相続人の中に行方不明の者がいる場合の対処方法について、令和5年施行の改正民法によって選択肢が増えますが、主に裁判所を介する方法です。裁判所を介さない方法としては、法定相続どおりに登記をするか遺言による方法になります。法定相続分で登記をしても、その後に、自由に処分ができるわけではありません。

  どれを利用するかは、個々の状況や制度の目的等に応じて決めることになると思いますが、事前に関係者を含めて対策ができるのは、遺言や家族信託等の生前対策によるしかありません。

  裁判所提出書類の作成や供託は、司法書士の所掌業務です。もちろん、遺言の作成等の生前対策にも対応できます。

この記事を書いた人

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