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成年後見制度

Googleで成年後見制度と入力すると「成年後見制度 ひどい」が検索候補として出てきます。  

成年後見制度は、障害者や認知症などで判断能力を失った高齢者の権利を擁護するための制度です。超高齢社会に突入した日本の政府は、この制度の利用促進を図ろうと苦心していますが、利用した方からの評判は、あまりよろしくないようです。

*1 高齢化社会→高齢社会→超高齢社会だそうです。 *2 成年後見制度の利用申立て件数は、年々増加しているようです。

 誰が成年後見制度を利用するのか?

成年後見制度(法定後見)を利用する方の多くは、やむなく利用する人です。病気になったから病院に行くようなものです。

お金が必要なのに、本人の判断能力に問題があるため、銀行でお金を引き落とせなくなった、自宅を売れなくなった、こうした時にやむなく利用されるのが成年後見制度(法定後見)です。

*申立理由のトップは、認知症による預貯金の解約のようです。

例えば、入院などに使うお金、施設の入所費用の捻出のためにお金が必要になるのに、本人の意思能力に疑義がある状態では、(事前になんらかの予防措置を講じている場合を除いて)銀行は対応してくれませんし、不動産売買の契約もできません。誰かに委任したくても、委任するための契約自体が締結できない状態なのです。

成年後見制度を利用すると、銀行からお金を引きとせます。ただし、自宅の売却は要注意です。自宅を売却しなければならない合理的な理由を用意して、家庭裁判所の許可があってはじめて売却ができます。

裁判所が出て来たり、いろいろと資料を揃えたり、手続がめんどくさそう、申立て費用もかかるし、、、でも問題は解決したのだからいいでしょう、なぜ評判が悪いのでしょうか。

 成年後見制度の問題とは(利用者の視点)

成年後見制度の評判が悪い最大の原因は(先に述べた利用開始の手続きや費用も理由のひとつです)、上記のような問題が解決しても、そこで利用が終わるわけではないというところだと思われます。

実際に利用して手続きをするのは、認知症などになった本人ではなく、ご家族の方です。ご家族としては、問題は解決したから、家庭裁判所だとか後見人とかはもう用済みなのです。病気はもう治ったのだから、医者の助けははいらないということです。

*申立人の割合は、親族>市区町村長>本人で、親族の中では本人の子が多いです。

国の考え(制度の趣旨)

しかしながら、国の立場としては、判断能力を失った方の権利擁護の必要性が消えたわけではありません。財産管理や身上監護などの本人に対する権利擁護の必要性は、本人の判断能力が回復するか死ぬまで続くと考えるのです。

*ここがすれ違いポイントですが、制度を所管する国の意図は別のところにあります。つまり、不幸にして判断能力を失ったご本人様のお金を家族が使いたいときに利用するための制度ではないということです。

一時利用を考えていたご家族にとって、これは問題です。何しろ、ご家族と言えども、他人として扱われるのです。通帳から不動産から本人の財産はすべて家庭裁判所の監督下で後見人が管理することになります。

後見人は、通常は家庭裁判所に選任された弁護士や司法書士などの赤の他人です。親族の不正が多く、本人保護に欠けるとして国が訴えられたことが背景にあるようです。

後見人には、報酬を払い続けなければなりません。中には親族がこれまで無償でまじめに対応してきたのに、一定の条件を超えたことにより、専門職の後見人(あるいは監督人)がやってくることもあります。これは内心穏やかではないでしょう。

当然、成年後見制度に対する評価の目は厳しくなります。

*後見人の立場を代弁すれば、後見人は家庭裁判所の監督下で与えられた権限の中でしか仕事ができません。

成年後見制度への不満

整理すると、よく指摘される成年後見制度への不満(特に親族からのもの)は、以下のとおりです。

(1)利用を開始したら止められない

(2)親族が後見人に選任されることは難しい

(3)親族は他人として扱われる

 政府の取り組み(第二期成年後見制度利用促進計画)

こうした不満について、国はどう考えているのでしょうか?

令和4年3月25日に第二期成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定されました。今後5年間、この計画に基づいて、利用促進のための取り組みが行われます。

3つの基本的な考え方

同計画のサブタイトルは、「尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参画を図る権利擁護支援の推進」です。そして、成年後見制度の利用促進に当たっての基本的な考え方として、次の3つを掲げています。

(1)地域共生社会の実現に向けた権利擁護の推進

(2)尊厳のある本人らしい生活を継続できるようにするための成年後見制度の運用改善等

(3)司法による権利擁護支援などを身近なものにするしくみづくり

見直しに向けた検討

先に挙げた不満への対応という視点からは、ちょっとピンとこないですが、急がずに中身をもう少し見てみましょう。「成年後見制度等の見直しに向けた検討」のところで、こんな記述があります。

成年後見制度については、他の支援による対応の可能性も踏まえて本人にとって適切な時機に必要な範囲・期間で利用できるようにすべき(必要性・補充性の考慮)、三類型を一元化すべき、終身ではなく有期(更新)の制度として見直しの機会を付与すべき、本人が必要とする身上保護や意思決定支援の内容やその変化に応じ後見人等を円滑に交代できるようにすべきといった制度改正の方向性に関する指摘、障害者の権利に関する条約に基づく審査の状況を踏まえて見直すべきとの指摘、現状よりも公的な関与を強めて後見等を開始できるようにすべきとの指摘などがされている。

ノーマライゼーション

これは、ワーキンググループでの検討段階からけっこう話題になっていた部分です。多くの人は、国が、例えば不動産の売却だけのスポット利用を考えていると捉えたようです。「家族信託ブームもいよいよ終わりか」とおっしゃっていた先生もいらっしゃるくらい、司法書士業界に衝撃が走りました。では、具体的にどうなるのでしょうか。上の文章の真下にこう書いてあります。 

国は、障害の有無にかかわらず尊厳のある本人らしい生活の継続や本人の地域社会への参加等のノーマライゼーションの理念を十分考慮した上で、こうした専門家会議における指摘も踏まえて、成年後見制度の見直しに向けた検討を行う。

ノーマライゼーションとは、誰でも一般の人と同じように生活できるようにするという考え方で、厚生労働省の施策にはよく出てくる言葉です。いまならダイバーシティとでも言うのでしょうか。

*この理念にもとづいて、2019年6月に民法が改正され、後見人等が特定の資格や職業に就けないことになっていた欠格条項が撤廃されました。被後見人であることをもって当然に医師、弁護士、会社の役員などの地位を失わせるのは人権侵害だという指摘があったことを踏まえてのことだそうです。

具体的には不明

さて、基本計画の他の部分も読みましたが、具体的にどうなるのかについて書かれた箇所は見当たりませんでした。運用改善の施策として明記してあるのは、①意思決定支援、②適切な後見人等の選任・交代の推進、③不正防止の徹底と利用しやすさの調和(後見制度支援信託の普及等)といったところです。優先して取り組む事項にも挙がっていません。今後の検討に委ねられるのでしょうか。

*任意後見制度の利用促進が、優先的に取り組むべき事項として挙げられていました。

 まとめ(個人的見解)

私見ですが、国は先に指摘したような不満に対して、成年後見制度の枠組みの中で、根本的な解決策を見出すことは難しいのではないかと思います。制度の趣旨がそもそも違うからです。一方で、長期の利用(つまり権利擁護を本人が生きている限り行うこと)を前提として「後見人の交代の推進」に関しては、多くの記載があります。

なんだか「尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参画を図る権利擁護支援の推進」という基本計画のサブタイトルが、重要な意味を持つように見えてきます。「ご指摘は承るが、一般人と同じように生活できるようにするための制度なんですよ」とでも言いたげな感じです。

*あくまでも個人的見解です。

この記事を書いた人

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