相続登記の申請が義務化されました YouTube

条件付きの家族信託

家族信託について、一般論として必要なのはわかるけれど、自分にはまだ必要だと思えない。家族は信頼しているけれど、財産管理を任せるのはちょっと、、、という方は多くいらっしゃいます。

そのようなときに条件付の家族信託契約とすることもできます。

元気なうちに契約書は締結するけど、実際に財産管理をお願いするのは先延ばしにするのです。

しかしながら、これには、厄介な問題があります。

停止条件と解除条件

ところで、法律用語の「条件」としては「停止条件」と「解除条件」があります。

停止条件」というのは、効力を停止する条件と思いきや、実は、「法律効果を発生させる条件」の意味です。なんで停止条件というかというと、条件が満たされるまでは停止しているからだそうです。この言葉を作った人は、なんとセンスのないことでしょう。そして、「解除条件」は、逆に「法律効果が消滅する条件」です。ますますややこしいですね。

条件と期限

なお「条件」が「将来が起きるかどうかわからないもの(認知症になったらとか)」に使うのに対し、「期限」は「将来の発生が確実なもの(1年後とか)」に使います。

契約の判断能力を問うもの

ちょっと横道にそれましたが、契約書の作成において、いつ効力が生じて、いつ消滅するかというのは、契約当事者の権利義務に影響するため、たいへん重要な問題です。

一方で、家族信託に関してこれが厄介な問題になるというのは、そもそも契約の必須条件である「判断能力」を問うものであるからです。

今は元気だし、自分が認知症になるとは到底思えない、だけど、万が一ということもあるから、本当に自分の判断能力が低下して、重要な判断ができない、契約も結べない、お金も下ろせないという事態になったら、子供に財産管理をやってもらうということで契約書を作成するのはいいよという場合、具体的に契約書の文言はどのようにすればいいのでしょうか?

後で紛争にならないようにするためには、できるだけ異なった解釈の余地を残さないようにする必要があります。法律の条文が回りくどくいのはそのせいです。主観的でなく客観的な基準が必要になるのです。

財産管理の開始時期に関する検討

では、具体的に考えてみましょう。

案1:委託者について後見開始の審判、保佐開始の審判若しくは任意後見監督人の審判があったとき

成年後見制度の要件と同じように裁判所の判断に委ねますから、これ以上客観的な判断基準はないでしょう。しかし、成年後見制度を利用したくないから家族信託を利用するという場合に、家族信託の効力を発生させるためには家庭裁判所に申立てをする(お金もかかる)ことが必要になるというのは、なんともおかしな感じです。

案2:医師による認知症の診断があったとき

これも第三者の専門家である医師の判断によるものですから、客観的な基準としては有効のように思えます。これに対して、認知症と契約締結の判断能力の有無は異なるといった意見や厳密に判断能力が低下した時期と診断の日あるいは診断書作成の日がずれる等の指摘もあるようですが、契約当事者間の決め事として割り切ればいいような気がします。なお、判断能力はとっくに失っているのに、本人が病院に行きたがらず、診断書がもらえないという問題はあろうかと思います。

登記まで想定する必要がある

しかしながら、問題はこれからです。

例えば、信託財産に不動産が含まれる場合はどうなるでしょう。不動産を信託する場合は、所有権の移転と信託の登記が必要です。登記は権利者と義務者が共同で申請することが基本です。

つまり、委託者と受託者の共同申請が必要になります。

しかし、肝心の委託者は既に認知症になっていますので、意思能力はなく、申請人にはなれません。

つまり登記手続をするには、後見制度を利用する必要があるのです。

契約の運用で対処する方法

ということになると、やはり原則にかえって、契約締結時に効力を発生させ、契約の運用などでなんとかするのが良いのではないかという考えに至ります。

例えば、実際には、親子で相談しながら財産管理をするとか、家業の事業を引き継ぐということであれば、経営のイロハを教えながら、段階的に権限を移していくというようなことが考えられます。そこで多少面倒でも契約の発効条件を細かく書いておくという対応でもよいかもしれません。

いっそのこと、モラトリアム期間を設定するだけにして、「委託者が受託者に対して信託を開始する旨の書面による意思表示を行ったとき」とだけ定めることでもいいかもしれません。

契約後の意思能力の欠如の問題

これらの問題は、契約発効後に、契約当事者がなんらかの事情の意思能力を失ってしまった場合の問題にもつながります。

例えば受託者が、突然の事故で意識不明の重体になってしまった場合はどうでしょうか。

委託者に代わって財産管理をすることはできませんから、契約に定めてある後任者に引き継ぐことになります。でも、不動産の場合は、やはり共同申請で所有権を移転する必要がありますのから、後見制度を利用するしか方法はなさそうです。

家族信託の契約はオーダーメイド

いずれにせよ、家族信託は、リスクをひとつひとつ想定して、自分で考えて、回避策を設定しておく必要があります。家族信託は、新しい制度であるので、参考になる実務ノウハウの蓄積が乏しいです。

しかしながら、家族信託は自分のことは自分で決めたいというニーズに応えるものなのだから、こうしたことをデメリットとして考える必要は全くないと考えます。

この記事を書いた人

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