司法書士・行政書士は、どうしても民法をベースに相続の問題を考えてしまいがちなのですが、お客様の関心として、やはり税金面での損得の問題は重要です。そこで、大雑把ではありますが、相続税の課税対象について、大事だと思われる事項をまとめてみました。
なお、個別の相続税のシミュレーション等は税理士等にお問い合わせください。弊所でも提携先の税理士を紹介することができます。
1.基礎的事項
相続税は、個人が亡くなったことによって、相続人に経済的利益が生じた場合にかかる税金です。法人には相続という概念がないということと、民法上の相続財産と税法上の相続財産の定義にズレがあるところがポイントです。
なお、相続税がかかる財産があっても、基礎控除額を超えない限り課税対象にはなりません。
基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で、計算をすることができます。
2.みなし相続財産
被相続人(亡くなった方)が死亡したことによって、相続人が経済的利益を受けた場合、民法上は相続財産ではないけれども(「受取人の固有の財産」という言い方をします。)、相続財産とみなして、課税されるものがあります。 みなし相続財産は、相続財産ではないので遺産分割協議の対象にはなりませんが、相続税の課税対象になります。 代表的なものは、(被相続人が掛け金を支払っていた)死亡保険金や死亡退職金です。これらは、民法上は受取人固有の財産なので遺産分割協議の対象にはなりませんが、相続税の対象になります。 ただし、一定の金額については、非課税になります。非課税の限度額は、500万円×法定相続人の数です。 このほか、遺言などによって債務免除を受けた場合の経済的利益なども課税対象になり得ます。 なお、相続税の軽減のため、年110万円の贈与税の基礎控除枠を使うケースが多いと思いますが、相続開始前3年以内に贈与されたものは、原則として相続財産に加算されますので要注意です。
3.相続放棄と生命保険
ときどき質問される事項で、ややこしいので、まとめてみました。
・相続を放棄しても死亡保険金を受け取ることはできます。
・ただし、税法上は「みなし相続財産」になるので、課税対象になります
・相続放棄をした者に非課税枠の適用はありませんが、「法定相続人」としてカウントされます。相続税の基礎控除額の「法定相続人の数」も同様です。
なお、上記の「相続放棄」とは、プラスの財産もマイナスの財産も相続をしない旨の裁判所による手続きを指します。つまり、単に遺産分割協議において相続人間の合意として相続する権利を放棄したということであれば、上記の相続放棄に関する取扱いの対象とはなりません(非課税枠の適用あり)。
裁判所に対する相続放棄の手続きは、司法書士の所掌です。
4.非課税の相続財産
上記とは逆に、国民感情等に照らして、相続財産なのに課税されないものもあります。 例えば、墓地や仏壇などの祭祀具、障害者に対する給付金、公益目的の事業に要した財産や寄付金等です。 なお、お葬式関係は、相続財産から控除することができるものがあります。故人の未払い金も、額が確定していれば、控除できます。つまり、課税されるべき相続財産の価額から差し引くことができます
5.まとめ
相続税の対象となる財産の価額は、以下の方法で計算します(この後に行う各人の税額の計算式は除いてます)。 ① 民法上の相続財産から非課税のものを引く。 ② みなし相続財産を①に加える。 ③ 課税対象になる贈与財産を②に加える。 ④ ③から故人の債務や葬式費用を引く。 ⑤ ④から基礎控除額を引く。 これらの知識をうまく組み合わせ、生前から対策を行うことで、相続人に負担の少ない相続が実現できます。