相続登記の申請が義務化されました YouTube

タワマン節税

令和4年4月19日に、なかなか興味深い最高裁判決が出ました。国税庁長官通達(いわゆる「評価通達」に従って相続財産の評価をしたところ、不適当とされた事案です。判決文はこちら

相続税対策のからくり

実務上、相続財産の価額については、土地は「路線価」で、建物は「固定資産税評価額」で評価します。これは、上記の国税庁の通達によってそう定められてるからです。路線価は、だいたい公示価格の約8割が相場で、固定資産税評価額は7割のようなので、ここに節税効果を考える余地が生まれます。

不動産を借金して購入すると相続税対策になるというのは、この仕組みを利用しています。特に、路線価は土地の値段なので、総戸数の多いマンションでは、土地の持分が細分化されて評価額が低くなり、さらにタワマンの上層階では、時価との乖離によって、より節税効果の高い結果となるのです。

これまで認められていたはずなのに?

ところが今回は、「不動産鑑定の価格」で計算されて、税務署から追徴などを食らったわけです。これを不服とした相続人側が、裁判を起こしましたが、1審も2審も負けて、最高裁でも裁判官全員一致の敗訴という結果になりました。ぼろ負けです。

通達どおりやったのに理不尽だって感じもするかもしれませんが、判決文を読むと、納得です。

要は「やりすぎ注意」ということです。

何が問題だったのか

今回のケースは、こんな感じです。94歳で亡くなった被相続人が亡くなる3年前に購入したマンション2棟の取得価格が13億8700万円だったのに対して、相続人が申告した価格は3億3000万円です。これに加えて、マンションの購入の借入金を債務として引いて、結果として相続税ゼロと申告したようです。さらに、二男の長男である孫と養子縁組もするといった徹底ぶりです。

これに対して税務署が不動産鑑定士による評価をやり直したところ、評価額は12億7300万円になり、2億円以上(本件相続に係る課税価格の合計額を8億8874万9000円、相続税の総額を2億4049万8600円)の追徴課税をしたのです。

通達は裁判所を拘束しない

法律系の試験でよく出ますが、判決文において、通達はあくまでも役所内部でこうしなさいってお達しだから、裁判所は判断を左右されませんってのが常套句です。

それに、財産評価基本通達6項には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と書かれています。報道によれば、これは「伝家の宝刀」と言われているようです。

それでも税務署の主張は「後出し」であって不公平ではないかって反論もあったことと思います。

税の公平性をよく考えよう

以下、判決文の引用です。

相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。

むしろ今回は無税とする方が不公平ということでしょう。便宜的に画一的な計算方法を示してはいても、結果的に他の方と比較して著しく不平等になるということであれば、伝家の宝刀を抜きますよということなのでしょう。細かいルールを定めきることは現実問題として無理でしょうから、「やりすぎ」かどうかについては、個々に判断せざるを得ません。

自分への戒め

なお、この件には、たくさんの専門家が関わっていたと思われ、同じ士業として、顧客に対する説明については、十分気を付ける必要があると感じました。実務上常識とされていることでも、リスクをあらかじめ丁寧に伝えておく必要があると思います。世に出回っている相続税対策は、結果的にそのような節税効果があるというものであって、専ら租税負担の軽減・回避をする目的で行った行為についてまでを国が認めているわけではありません。これはやりすぎではと思えるバランス感覚は持っておきたいものです。

*司法書士は税務の専門家ではありませんので、税務に関しては税理士等にご確認ください。

この記事を書いた人

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